はじめに
本日は憲法論文の第2回として公務員の人権についてやっていきたいと思います。
試験前にぱっとみて頭の中を整理することを目的としているので有用だと思います。
本日の問題
1.郵便局で機械的な作業をするA。勤務時間外にB党を支持する目的で公認候補者の選挙ポスターを公営掲示場に掲示。この行為が国家公務員法102条第1項が禁止する「政治的行為」にあたるとしてAを処罰するとした場合、憲法21条1項に反しないか。
2. 地方裁判所で保全、執行と刑事裁判を担当する判事補Cが勤務時間外に組織犯罪対策三法案に反対する集会に一般客として参加。自らの身分を明らかにして、「本当はパネリストとして参加する予定であったが、所長から警告を受けたので取りやめる」と発言。その行為が裁判所法52条第1号の禁止する「積極的に政治運動をすること」にあたるとして、Cを懲戒することが憲法21条第1項に反しないか。
論点
1.公務員の人権の制約根拠
2.公務員の政治活動の限界
ベースとなる判例
判例の時間軸は猿払→寺西→堀越
・猿払事件(最判S49.11.6)
~事件当時郵便局員は国家公務員。政治的行為の合憲性が問題。勤務時間外に支持する政党の公認候補のポスターを公営掲示板に掲示。これが国家公務員の政治的行為を禁止する国家公務員法102条1項および人事院規則14-7に違反すると起訴された。まず「政治的行為は行動としての側面のほか、政治的意見表明としての面を有する。その限りで憲法21条による保障を受ける」→そのうえで、①目的の正当性、②目的と手段との合理的関連性、③得られる利益と失われる利益との均衡という緩やかな審査基準を用いた。→①行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保することなので正当とし、②一律的・全面的な禁止も目的との間に合理的関連性ありとし、③得られる利益は「公務員の政治的中立を維持し、行政の公平・公正な運営と、それに対する国民の信頼を確保すること。これは「国民全体の共同利益」として重視。失われる利益は「国家公務員による特定の政党支持文書の配布・提示の禁止により、個々の公務員が表現の自由を制約されるとした。結果、得られる公益の重要性が失われる個人の不利益よりもはるかに大きい、あるいは公益がより重要であるため、その禁止は「利益の均衡を失するものではない」とされた。
・堀越事件(最判H24.12.7)
~勤務時間外に政党機関紙を社宅のポストにポスティング。国家公務員法102条1項および人事院規則14-7に違反すると起訴された。→「政治的行為とは観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるもの」と限定解釈。→21条1項、31条に違反するかどうかは「政治的行為に対する規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうか」によるとし、「本件罰則規定の目的のために規制が必要とされる程度と、規制される自由の内容及び性質、具体的な規制の態様及び程度等を較量して決せられるべきとして比較衡量の基準を用いた。→①公務員の政治的中立性を保持して行政の中立的運営を確保し、国民の信頼を維持する目的は「合理的であり正当」、②「禁止の対象は政治的中立性を損なう恐れが実質的に認められる政治的行為に限定され、それ以外は禁止されないので、その制限は必要やむをえない限度にとどまる目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のもの」→本件罰則規定を合憲とした。→被告の行動は政治的活動とは当たらず無罪となった。
・寺西判事補戒告事件(最判H10.12.1)
~判事補が法案反対シンポジウムに出席。客席から「当初パネリストとして参加する予定であったが、パネリストとしての発言は辞退する」趣旨の発言。これが裁判所法の「積極的に政治運動をすること」にあたるとして分限裁判で戒告処分を受けたため、被告が即時抗告。→最高裁はまず、「積極的政治運動をすること」を禁止することは憲法21条1項に反しないとした。裁判官は外見上も中立・公正を害さないように自立、自制すべきことが要請され、一般職の公務員より要請が強い。禁止の目的が正当で目的と禁止との間に合理的な関連性があり、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでないなら憲法21条1項に反しない。→三権分立主義、内容中立規制であること、得られる利益(裁判に対する国民の信頼維持)は失われる利益に比してさらに重要。→積極的に政治運動をすることを禁止することは憲法21条1項に違反しない。
注意点(ここが本当に自分なりに問題点をあげられるか)
ベースとなる判例→判例のロジック、どういった論点が争われたか、今回の問題に対して射程に入るのか、入る入らないの区別が分かるか。
あとは説がどうなっているか等かなあ。
前段
公務員の政治活動の自由の問題
猿払事件をベースにするか、堀越事件をベースにするかで違いが出てくる。最高裁としては堀越事件で実施的な対応を変更をしたと理解されることから堀越事件をベースに検討した方がベター。
国家公務員法102条を肯定すると適用違憲について論じる流れとなるので立法事実と司法事実の使い方に注意が必要(司法事実は直接使用できず、例えばといった例示でのみ使える)。
後段
寺西事件をベースにするが、裁判官の場合は公務員の人権制約原理が使えるのかを検討する。
条文(国家公務員法、裁判所法等は問題文に示されるでしょう。覚えなくて良い。)
国家公務員法102条1項 公務員の政治的活動の制限
憲法21条1項 表現の自由
裁判所法52条1項 裁判官の積極的政治活動の禁止
答案構成
第1 前段
1.国家公務員法102条1項は憲法21条1項に反しないか
(1)選挙ポスターの掲示→表現にあたる
(2)処罰の対象は「政治的行為」。→表現の自由が制約を受けている
(3)憲法は公務員関係の自立性を憲法秩序の構成要件とする
→最低限度の制約は受けるのだ。
(ア)規範
権利の重要性。表現の自由であり自己実現や自己統治につながる(具体的に示さな いとだめ)。→権利は重要性が高い。
違反者に罰則あり→規制は強い。
→だから 厳格審査基準で審査する。具体的には
Ⅰ)目的が必要不可欠
Ⅱ)手段が必要最小限
ならば合憲
(イ)あてはめ
目的~公務員の自立性維持 →必要不可欠
手段~「政治的な行為」(国家公務員法102条)→政治的中立性を損なうことが現実に起こりうると認められるものをいうものと解する。不当に範囲が拡大せず。
→必要最小限の制約といえる。
(ウ) 結論
よって国家公務員法102条1項は合憲。
2.ここから適用違憲の話
Aは非管理職、勤務外、国の施設利用なし
→政治的中立性を損なうことが現実に起こりうると認められとはいえない。
→政治的行為とはいえない。
→Aに適用するのは違憲。
3.Aを処罰するのは21条1項に反し違憲である。
第2 設問2
1.政治集会での発言→表現の自由(憲法21条1項)であり憲法で保障されている
憲法で保障されているのに裁判所法により「積極的に政治運動をすること」だとし
てCを処罰
→Cの表現の自由を制約している
→裁判所法52条1項1号は憲法21条1項に反しないか
(1)裁判官は職権行使において独立(憲法76条3項)
→公務員関係の存在、自立性維持 という制約根拠が妥当せず。
→とはいえ、必要最小限度の規制は許される
→表現内容中立規制(内容に関係なく、手段や方法等を規制する)
→だから中間審査基準をつかう。具体的には
目的が重要で、手段が効率的かつ過度でない場合に限定して正当化
(2)目的は
司法権の独立(憲法76条3項)、中立公正の確保することで
裁判に対する国民の信頼を維持すること。三権分立の規律
→目的は重要といえる
(3)手段
裁判官は強い身分保障がある。
裁判所法52条1号は「積極的な政治活動」を禁止。
→組織的、計画的、継続的な活動を能動的に行うことを限定して禁止
(裁判官の中立・公正を害するおそれがあるものはダメとしている)
→だから効果的かつ過度でない手段といえる
(4)結論
裁判所法52条1号は憲法21条1項に反しない。
2.適用違憲を検討する
◆判例と同じように考えると
本件集会は単なる討論集会ではなく、初めから本件法案を悪法と決めつけ、これを廃案に追い込むことを目的として開催されている。そのような場での集会の趣旨に賛同するような言動をすることは単なる個人の意見の表明の域を超える。よって(原審がした)職務義務違反である。戒告処分を相盗とした(原告の上告を棄却)。
◆判例と違う考え方
Cの発言行為が「積極的な政治運動」にあたるか
集会には一般客として参加。発言内容もパネリストとして参加をやめる経緯を説明しただけ。反対する組織犯罪対策三法案の内容には触れていない。
→組織的、計画的または継続的に政治上の中立・公正を害するとは言えない。
→「積極的な政治運動」にはあたらない。
~よってこれを積極的な政治運動に当たるとしてCを懲戒することは憲法21条1項に反する。
◆論点落とし(抜け落ち注意)
目的手段審査をした後に適用違憲の検討を忘れないように。
◆論証
なし
◆三段論法との差等あれば
なし


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