はじめに
選択科目である倒産法の予想問題について、予備試験・司法試験の超頻出かつ実務上の最重要論点である「同時交換的取引の否認(161条・162条)」、破産・再生の双方で必ず問われる「相殺禁止規定の知得要件(相手方が知っていた)」、および実務的な難所である「継続的給付契約と共益債権・再生債権の切り分け」の3問について、具体的な問題文と合格水準の答案構成(三段論法の骨組み)を考えてみた。倒産法論文で確実に点を取るための「民法の原則からの修正」「破産法と民事再生法のパラレル(比較)な条文操作」のフレームワークが必要となる。
【予想問題1】破産法(否認権・同時交換的取引の否認)
1. 問題文
資金繰りに窮した甲会社は、令和5年10月1日、大口の取引先である乙会社から「未払の売掛金1,500万円を今すぐ支払わなければ、今後の取引を一切停止し、即座に法的手段に出る」との執拗な取り立てを受けた。困惑した甲会社は、手元資金がなかったため、自社所有の不動産(時価1,500万円)を当該売掛金債務の弁済に代えて乙会社に給付した(代物弁済)。
さらにその翌月、甲会社は当面の従業員の給与や事業継続のための現金を確保するため、自社で使用していた主要な製造機材(時価500万円)を、事情を知る丙に500万円の現金と引き換えに売却し(同時交換的取引)、受け取った現金をそのまま従業員への給与支払いに充てた。
その後、令和6年1月に甲会社について破産手続が開始され、破産管財人Aが選任された。Aは、乙に対する代物弁済、および丙に対する機材売却の効力を否定し、不動産および機材を破産財団に取り戻したいと考えている。Aの請求の成否について論じなさい。
2. 答案構成
- 第1:乙に対する代物弁済の否認(破産法162条・偏頗行為否認)
- 要件の検討: ①支払不能等(1項1号・2号)、②破産債権者を害する行為、③乙の悪意(知得)。
- 代物弁済の性質(★ポイント):
- 本件の代物弁済は、もともと金銭で支払うべき債務を不動産で決済しているため、原則として「時期又は方法について債務者の義務に属しない行為(162条1項2号)」にあたる。
- 当てはめ: 支払不能「前」30日以内、または支払不能「後」になされた場合、乙が「他の債権者を害する事実(支払不能の事実等)」を知っていた(悪意)ときは否認できる。乙は執拗な取り立てを行っており、甲の資金窮迫(悪意)を推認させる事実があるため、162条により否認可能。
- 第2:丙に対する機材売却の否認(破産法161条・同時交換的取引の否認)
- 要件の検討(161条1項): 相当の対価を得てした処分行為の否認。
- 同時交換的取引の原則と例外(★最重要論点):
- 原則: 時価(500万円)と適正な現金(500万円)をその場で交換する取引は、全体の財産価値に増減がないため、原則として破産債権者を害さず、否認できない。
- 例外(否認できる場合): ①債務者が「隠匿その他の破産債権者を害する処分」をする意図(不当処分意図)を有しており、②相手方(丙)がその意図を知っていた(悪意)場合には、例外的に否認できる。
- 当てはめ(事実の評価): 本件で甲は、得た現金を「従業員の給与支払い(正当な事業継続目的)」に充てており、財産を隠したり無償で親族に流したりするような「不当処分意図」は認められない。したがって、丙が事情を知っていたとしても、161条の要件を充たさず、否認できない。
- 第3:結論
- Aは乙への代物弁済は否認できるが、丙への機材売却は否認できない。
【予想問題2】破産法・民事再生法(相殺の禁止と制限の射程)
1. 問題文
Bは、個人商店を営むCに対して200万円の売買代金債権(売掛金)を持っていた。Cの経営状況が著しく悪化していることを風の噂で聞いたBは、Cに対する債務を相殺によって免れようと考えた。そこでBは、Cが第三者Dに対して有していた300万円の貸金債権を、Dから50万円という格安の価格で譲り受けた(Cに対する受働債権の取得)。
その後、BはCに対して「譲り受けた300万円の債権と、自分が元々持っていた200万円の売買代金債務を対当額で相殺する」との意思表示を行った。
その後まもなく、Cについて民事再生手続(または破産手続)が開始された。再生債務者C(または破産管財人)は、Bの相殺は不当であるとして、その効力を争い、Bに対して200万円の売買代金の支払いを求めている。C(または破産管財人)の請求は認められるか。破産手続と民事再生手続の双方の条文を対比して論じなさい。
2. 答案構成
- 第1:倒産手続における相殺権の原則と例外
- 原則: 倒産手続(破産法67条1項、民事再生法92条1項)においても、手続開始時に債権・債務が対当していれば、手続によらずに相殺できる(相殺の担保的機能の保護)。
- 例外(相殺の禁止): しかし、他人の倒産危機に乗じて不当に債権を回収・隠匿する行為(相殺状の横取り)は、債権者平等の原則を害するため禁止される。
- 第2:相殺禁止規定の要件検討(★パラレルな条文操作)
- 破産手続の場合(破産法71条1項3号、または72条1項3号):
- 要件: 「支払不能等の事実を知って」破産債権(または破産財団に対する債務)を取得・負担した場合、相殺は禁止される。
- 当てはめ: BはCの「経営悪化を風の噂で聞き」、かつ300万円の債権を「50万円という格安価格」で譲り受けている。これは、Cが支払不能等にあることの「知得(悪意)」を十分に基礎づける間接事実である。したがって、破産法上、この相殺は禁止され、無効となる。
- 支払不能~2条11項 金銭債務を返済する能力がないため、期限到来した債務を「継続的」かつ「客観的」に返済することができない状態を指す。(要件4つ①弁済能力欠乏②弁済期到来③継続的不能④客観的不能)
- 民事再生手続の場合(民事再生法93条1項3号、または94条1項3号):
- 破産法と全くパラレルな規定が存在する(再生手続開始の申立て・支払不能等の事実を知って債権を取得した場合の相殺禁止)。
- 結論: 民事再生手続においても、同様に相殺は禁止され、無効となる。
- 破産手続の場合(破産法71条1項3号、または72条1項3号):
- 第3:結論
- Bの相殺は破産・再生いずれの手続においても無効であり、破産管財人(または再生債務者)の請求は認められる(Bは200万円を支払わなければならない)。
【予想問題3】民事再生法(再生債権・共益債権の切り分けと別除権)
1. 問題文
不動産賃貸業を営むEは、自ら所有するオフィスビルの一室を、テナントであるD会社に月額100万円で賃貸していた。しかし、D会社は放漫経営が原因で資金繰りに行き詰まり、令和5年8月分、9月分、10月分の計3か月分の賃料(計300万円)を滞納した。
令和5年11月1日、D会社について民事再生手続開始の決定がなされた。D会社の管財人(または再生債務者)は、事業継続のために当該オフィスビルが不可欠であると判断し、開始決定後もEとの賃貸借契約を解除せず、そのまま同室を使用し続けている。
EはD会社に対し、「開始決定前に滞納された300万円、および開始決定後の11月分の賃料100万円の全額について、再生手続(再生計画)の減額等に縛られることなく、随時弁済を受ける権利(共益債権)がある」と主張している。Eの主張の当否について論じなさい。
2. 答案構成
- 第1:開始決定「後」の賃料(11月分・100万円)の法的性質
- 共益債権(民事再生法119条2号、または49条4項)の成否:
- 規範: 継続的給付契約や、双方未履行の双務契約について、再生債務者等が手続開始後に履行を選択し、または解約しなかった場合、開始決定後に生じた相手方の請求権は「共益債権」となる(119条2号、49条4項の趣旨)。
- 当てはめ: 11月分の賃料は、開始決定(11月1日)という「区切り」の後に、D会社がビルを使用し続けたことの対価(財団全体の利益のために支出された費用)である。したがって、Eの主張通り共益債権となり、手続によらず随時弁済を受けられる(121条1項)。
- 共益債権(民事再生法119条2号、または49条4項)の成否:
- 第2:開始決定「前」の滞納賃料(3か月分・300万円)の法的性質
- 再生債権(民事再生法84条1項)への該当性:
- 規範: 再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権は、原則としてすべて「再生債権」となる。
- 例外(共益債権化するか?): 継続的契約において、開始後の使用を継続する場合であっても、開始前にすでに発生していた滞納賃料債権が、自動的に共益債権に格上げされることはない(判例・実務の確立した原則。共益債権化を認めると、他の一般債権者との公平を著しく害するため)。
- 当てはめ: 8〜10月分の滞納賃料は、開始前の原因に基づくものであるため、原則通り再生債権となる。Eはこれを再生計画の手続内でしか行使できず、権利変更(減額等)の対象となる。
- 再生債権(民事再生法84条1項)への該当性:
- 第3:結論
- 11月分(100万円)についてのEの主張は正しいが、過去の滞納分(300万円)についての主張は誤りである(過去分は再生債権となる)。
その他」(まとめ等)
倒産法論文を忘れないための「対策」
倒産法は、「手続が開始された日(開始決定日)」というタイムラインを脳内に1本引くことが、記憶維持の最大のコツです。~これは本当に重要!!
- 否認権・相殺禁止: 開始日の「前」に、泥縄式に財産を動かした悪質な行為をどう取り締まるか。
- 債権の切り分け: 開始日の「前」の原因(過去の債務)は一律カットして縮小させ、開始日の「後」の費用(未来への投資)は満額払う。
すべての条文がこの「開始決定日による財産の固定と、公平な分配・再建」という目的(破産法1条、民事再生法1条)に向かって作られています。このタイムラインのイメージがあれば、細かい条文番号を忘れても、論文で大外しすることはなくなります。


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