【予想問題1】総論(因果関係と故意・錯誤)
1. 問題文
Aは、日頃から激しい怨みを抱いていたVを殺害しようと考え、深夜、人通りのない路上において、殺意をもってVの頭部を木製バールで力任せに1回殴打した。Vは頭部から激しく出血し、朦朧とした状態でその場から逃げ出したが、極度の恐怖と混乱から、赤信号であるにもかかわらず片側3車線の幹線道路に飛び出した。そこへ、法定速度で適法に走行していたB運転の普通自動車が進行してきてVを撥ねた。
Vは病院に搬送されたが、Bの車に撥ねられたことによる内臓破裂により死亡した。後の医師の鑑定によれば、Aによる殴打の傷は全治3ヶ月の重傷ではあったが、それ自体でVが死亡する危険性は極めて低く、Bの車に撥ねられなければVが一命を取り留めていたことは確実であった。
Aは「バールで殴ったのは事実だが、まさかVが道路に飛び出して車に撥ねられて死ぬとは思わなかった」と供述している。Aの罪責について論じなさい(道路侵入に関するVの過失、およびBの刑事責任は考慮しない)。
2. 答案構成
- 第1:Aのバールによる殴打行為について殺人既遂罪(刑法199条)の成否
- 客観的構成要件の検討:
- 実行行為の存在: 殺意をもって頭部をバールで力任せに殴打する行為は、人の生命という法益に直接の危険を及ぼす行為であり、殺人罪の「実行行為」にあたる。
- 結果の発生: Vが死亡するという「結果」が発生している。
- 因果関係(客観的帰責)の有無(★最重要論点):
- 規範: 実行行為と結果との間に「条件関係(あれなければこれなし)」があることを前提に、発生した結果が実行行為の持つ「危険が現実化した」ものといえるか否かで判断する。その際、介在した事情(Vの飛び出し)の異常性や、実行行為が介在事情に与えた影響度を考慮する。
- 当てはめ: バールでの殴打自体は致命傷ではない(直接的危険性は低い)。しかし、Vの飛び出し行為は、Aの激しい暴行による「極度の恐怖と混乱」によって直接誘発されたものである。したがって、Vの行為はAの実行行為に随伴する「誘発された介在事情」であり、異常とはいえない。Vの死亡という結果は、Aの暴行が内在させていた危険が現実化したものと評価できる。よって、因果関係は認められる。
- 主観的構成要件(故意・錯誤)の検討:
- 因果関係の錯誤: Aは殺意(故意)を有しているが、実際の因果経過(車に撥ねられて死亡)を認識していなかった。
- 規範: 認識していた因果経過と実際の因果経過が異なっていても、両者が法定的な構成要件の範囲内で一致(客観的帰責の範囲内で一致)している限り、故意は阻却されない。
- 当てはめ: Aの行為の危険が現実化したといえる範囲内のズレにすぎないため、殺人罪の故意は阻却されない。
- 客観的構成要件の検討:
- 第2:結論
- Aには殺人既遂罪(199条)が成立する。
【予想問題2】総論・各論交錯(共犯の解消と強盗致死罪)
1. 問題文
CとDは、資金に窮したことから、深夜にVが1人で営む高級貴金属店に押し入り、Vを脅迫して店内の商品を奪う計画(強盗)を立てた。
当日、CとDは計画通りVの店舗に侵入。CがVを羽交い締めにし、口を塞いで「騒ぐと殺すぞ」と脅迫している最中、Vが激しく抵抗して暴れ、周囲の什器が倒れて大きな音を立てた。これを見たDは、警察に通報されるのではないかと急に恐ろしくなり、Cに対し「俺はもう降りる、帰らせてもらう」と言い残し、店内の金品を一切手にすることなく、そのまま裏口から店の外へ逃走した。
残されたCは、逃げるDに気を取られつつも、Vの抵抗を完全に抑え込むため、Vの首を背後から腕で強く絞め続けた。その結果、Vは反抗を抑圧されると同時に、窒息により死亡した。Cはその後、店内の金品1,000万円相当をバッグに詰めて逃走した。
CおよびDの罪責について論じなさい。
2. 答案構成
- 第1:Cの罪責について
- CはDと共謀の上、Vに対し反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を加え、死亡させて金品を奪っている。
- Cには、強盗致死罪(刑法240条後段)が成立する(死亡について殺意は不要)。
- 第2:Dの罪責について(★共犯関係の解消・離脱)
- 強盗予備・住居侵入・強盗着手の共同正犯の成否: DはCと共謀し、実行行為の一部(侵入・最初の脅迫)を行っているため、この時点までは共同正犯(60条)が成立する。
- 共犯関係の離脱(解消)の成否:
- 規範: 実行着手後において共犯関係の離脱が認められるためには、単に主観的に離脱する(辞める)だけでなく、「自己の行為が及ぼした物理的・心理的因果性を完全に遮断(解消)」することが必要である。具体的には、他の共犯者の実行行為を制止するなどして、当初の共謀の危険性を消滅させなければならない。
- 当てはめ: Dは「帰る」と告げて逃走したにすぎず、Cはそのまま強盗行為を継続している。Dは、Cが暴行を継続する契機となった心理的・物理的影響(一緒に店に押し入ったという事実やVを制圧した状態)を何ら除去していない。したがって、共犯関係の離脱は認められない。
- 結果(死亡)への不真正不作為・共同正犯の着せかけ: 離脱が認められない以上、Dは離脱後のCの行為についても共同正犯としての責任を負う。CがVを死亡させた行為は「強盗の機会」に行われたものである。
- 第3:結論
- CおよびDには、建造物侵入罪(130条前段)および強盗致死罪(240条後段)の共同正犯(60条)が成立し、両罪は牽連犯(54条1項後段)となる。
【予想問題3】各論(詐欺罪・窃盗罪の区別とクレジットカード不正利用)
1. 問題文
Eは、知人Fから「スマートフォンの調子が悪いので、設定を見てほしい」と頼まれ、Fのスマートフォンを一時的に預かった。Eは、Fが席を外した隙に、同スマホの決済アプリを開き、Fが事前に登録していたクレジットカード情報を盗み見た。
その後、Eは自己のスマートフォンから大手インターネット通販サイトにアクセスし、盗み見たFのクレジットカード情報を入力して、時価30万円の高級腕時計の購入手続を行い、自己の自宅へ配送させた(電子決済は自動審査で承認された)。
さらに翌日、EはFのスマートフォンを持ったまま、衣類販売店の無人セルフレジに赴き、同スマホの決済アプリ(電子マネー)を店側の決済端末にかざして、衣服2着(販売価格計3万円)の購入手続を行い、衣服を袋に詰めて店外に持ち出した。
Eの一連の行為の罪責について論じなさい。
2. 答案構成
- 第1:インターネット通販サイトでの高級腕時計の購入行為
- 罪名の検討: 人に対する欺罔行為がないため、通常の詐欺罪(246条)は成立しない。
- 電子計算機使用詐欺罪(246条の2)の成否:
- 要件: 人の事務処理に使用する電子計算機に「虚偽の情報」等を入力して、財産権の得喪に関する「不当な指令」を出させ、財産上不法の利益を得ること。
- 当てはめ: Eは、名義人Fの承諾なくFのカード情報を入力しており、これはシステムに対して「正当な権限ある者による決済要求」と誤認させる「虚偽の情報」の入力にあたる。これによりサイト側のサーバーに「不当な指令」を出させ、代金決済の利益(財産上不法の利益)を得ている。
- 結論: 電子計算機使用詐欺罪が成立する(腕時計の取得については、利益を得た結果の不可罰的事後行為、または全体として同罪に包摂される)。
- 第2:無人セルフレジでの衣服の購入行為
- 詐欺罪(246条1項)の成否: 詐欺罪は「人を欺いて」財物を交付させることが必要である。無人セルフレジという「機械」を欺くことはできないため、詐欺罪は不成立。
- 窃盗罪(235条)の成否:
- 要件: 他人の占有する財物を、その意思に反して自己の占有に移転すること。
- 当てはめ: 衣服の占有は、レジを通過して適法な決済が完了するまでは、依然として「店側(店長)」にある。Eは正当な権限なくFの決済アプリを悪用しており、店側はこのような不正決済による商品の持ち出しを承諾していない(占有移転の瑕疵)。したがって、店の意思に反して衣服の占有を移転したといえる。
- 結論: 窃盗罪が成立する。
- 第3:結論
- Fのスマホ自体の領得(占有離脱物横領等)を除き、上記2罪が成立し、これらは併合罪(45条前段)となる。
その他(まとめ等)
刑法論文を忘れないための「対策」
刑法は、「客観から主観へ」という検討順序のステップがすべての問題で共通しています。
因果関係にせよ、共犯離脱にせよ、まずは「外的な事実(物理的な因果の流れ)」を確定し、その後に「内的な事実(故意や共謀の心理)」を検証するという共通のフレームワークを意識すると良い。この手順が頭に入っていれば、各論の具体的な罪名が変わっても、論文の記述で迷うことがなくなります。頑張りましょう。


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